恐る恐るぼったくる食堂にスリランカ人の倫理観を見た

海外、特に発展途上国を旅していると必ずと言っていいほど遭遇すること。それは・・・

「ボッタクリ」

ボッタクリ(ぼったくり)とは、店側の客への不正行為で、商品やサービスを相場を大幅に上回る価格で提供し、客を欺くことを指す。

Wikipediaより

例えば何度か訪れたインドでは、さも当たり前のことだと言わんばかりに「ぼったくり」が横行しています。
観光客もそれは承知していて、ショップなどではいかに値引き交渉して少しでも安く済ませるかが支払いのカギとなり、逆にそれを楽しんじゃうのも旅のだいご味の一つとなることもあります。

仏教を信仰し輪廻転生を信じるタイではどうでしょう。
タイの人々は、来世が安泰で幸せなものとなるように徳を積むことが重んじられています。
しかし時代も変われば人の心も変わるもの。
観光客でごった返す都市部の街中では堂々とボッタクリ行為が繰り広げられ、もはやそれは日常茶飯事、商売のため生活のため、それが悪いことだとは誰も思っていないでしょう。

さて、今回旅したスリランカはタイと同じ上座部仏教を信仰するシンハラ人が大多数を占める国。
インドと同じヒンドゥー教を信仰するタミル人も共存していますが、「悪いことをしてもどこか憎めない」むしろ「悪いことができない」ような雰囲気の人々が多いように感じました。
端的に言うと「人が良い」「良心をもって生きている」とでもいいましょうか。

スリランカ滞在中、買い物や食事に出かけてもあからさまなボッタクリ被害にあったことは、運が良かったのかもしれないけどあんまりなかったように思います。

ところが、トリンコマリー滞在中に訪れた大衆食堂で、「ムッとしたもののどこか憎めないボッタクリ」に遭遇しました。

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恐る恐るぼったくる大衆食堂にて

5日間滞在したトリンコマリーでは幾つかのレストランや食堂を食べ歩きました。
泊っていた宿の近くにあった、いかにも大衆食堂というところでランチを食べた時のこと。

1回目の入店

その食堂は太っちょのおじさんとガタイの良いお兄さん2人がメインで運営しており、そのうちのガタイの良いお兄さんがほんの少し英語が分かる感じでした。
こんな食堂に外国人観光客が来たのがよほど珍しかったのか、すごい歓迎ぶりでした。

トリンコマリーのぼったくり食堂

店内にはメニューも何もないので、とりあえずチキンカレーを注文。
値段はどこにも書いてなかったけど、まあこの手の食堂だからそんなに高くないだろうと判断して値段を聞かずに注文しました。

出てきたチキンカレーは、可もなく不可もなくと言った感じで普通な味とボリューム。
食べている最中に店員のお兄さん(片言英語氏)が「おかわりはいらないか?」と聞いてきました。
ちょっとお腹いっぱい気味でしたが、もうちょっと食べられるかと思いうっかり「Yes」と返事。
そしたらさもうれしそうにカレー皿を追加で持ってきてくれました。
こういうことはスリランカではよくあります。しかしおかわりと言ってもそれもサービスのうちで普通は追加料金なんかは取りません。

トリンコマリーのぼったくり食堂

食べ終わると再度おかわりを促して来たのですがさすがにお腹いっぱい。お会計を頼みました。

すると片言英語氏と太っちょおじさんがヒソヒソと何か話しています。
そしてしばらくして金額が書かれた紙切れを手渡されました。
値段を見ると、ん?少し高いかなという程度でしたが、もしかしたらこの店は追加の分も取るのかなと思ったくらいで特に疑問に思いませんでした。
それにサービス精神旺盛の彼らに問い詰めるのも何か悪いかなと思って、その時は普通にお金を払うことにしました。

店を出る時、店員の2人と写真を撮りあったりしてちょっと仲良くなり、帰り際に満面の笑みで「また来なよ!夜にでも食べにおいで!」とニコニコしながら言うもんだから、よっぽどうれしかったんだなーとか思ったりしました。
味はまあまあだけど、宿からも近いしまた来てみるかということでその場を後に。

2回目の入店

さて数日後、夜ごはんを食べに外へ出て、再びあの店に行ってみようかということに。

薄暗い店内からあの2人が出て来て、「おー!よく来てくれた!」という感じで席に案内されました。
でも心なしか先日ほどの笑顔がなく、何か伏し目がち。
気にせずカレーとコッツェを注文。
するとなぜか「君たちはこの前ポリスとかに行ってないよね?似たような人を見かけたんだけど。」ということを質問されました。
え?なんのこっちゃ、警察なんて行ってないよ、と返事をすると「OK、OK!」みたいな感じでそそくさと厨房へ消えて行く2人。
なんだかソワソワしてるけど、どうしたんだろ?

しばらくして料理が出て来ましたが、これは・・・。

トリンコマリーのぼったくり食堂

出てきたコッツェがなんというか、アカンことになっている。
作り方がかなり雑、一口食べてみるとほとんど味がない・・・。
チキンコッツェのはずが、鶏の骨みたいのがゴロゴロ入っててすごく食べづらい。

というか、マズイ!

これは正直店で出すような食べ物じゃない・・・。どうなってるんだ?

そこへ、「おかわりだろ?」と勝手に追加のカレー皿を持ってくる片言英語氏。
おいおい!頼んでないよ!勝手に持ってくるなよ。
おかわりどころじゃない。いつもは絶対食べ物は残さない僕ら夫婦も残さざるを得ないほどのマズさでした。

ちょっと気分が悪くなり、さっさと店を出ようとお会計を頼みます。
すると前回みたいに2人の男はヒソヒソ話を始めました。今度は厨房の方に消えて前より長い時間待たされました。

何か奥で2人の話声が聞えましたが現地語なので何を言ってるのか分かりません。
そしてしばらくして金額が書かれた紙を片言英語氏が持って来ました。

前とたいして変わらない金額だろうと思ってその紙を見ると・・・

「800」とか書いてあります。

は?800ルピー!!? ありえねえ。

トリンコマリーのぼったくり食堂

コッツェとカレーライス一皿ずつで追加注文もなし。どう考えても高すぎる。
そこでブチ切れた妻が英語で「おかしい!高すぎる」とすかさず抗議。
(普段は温厚な)僕も明らかなボッタクリに「なぜこんな値段なんだ!?」と強気に出ました。

こっちが英語でまくしたてると、反論してくるのかと思いきやものすごく困惑したような表情になり、「いや、これは・・・つまり・・・」というような感じで金額の説明をトロトロと始めます。

「カレーの追加代が○○ルピーで・・・」
「頼んでない!勝手にあんたが持って来たんだろ!」
「アイ・ドン・ノウ・・・。ディス・プライス、ユー・ペイ。」

こんな感じの会話が続き、なんだか英語が分からないフリをし始めたので

「ふざけるなよ、誰か英語話せる人はいないのか?」
と叫ぶと、ちょうど店内で食事をしていた婦人が英語ペラペラだったみたいで、事情を聞いてくれました。

「こんな二皿でこの値段ってありえないですよね?ちょっと彼らに言ってください。」

明らかなボッタクリ行為がおかしいと同意してくれたご婦人が店員の2人に現地語で説得。
すると金額を書き直し、一気に値下がり。紙には500と書いてありました。
それでも全然高いと思ったのですが、一刻も早くこの場を去りたいと思って500ルピーを置いてさっさと店を出ました。

太っちょおじさんが帰り際に「ア、アイム・ソーリー・・・」と言ってるのが聞えました。
そしてもう「また来なよ!」という元気な言葉を聞くことはありませんでした。

恐る恐るボッタクリ行為をしてみたのでは?

店を出た後少し冷静になってみると、ああ、彼らは世に言う「ボッタクリ」という行為をおそらく初めてやってみようと思ったのかもしれません。
どこかで「外国人はいいカモだ」と入れ知恵されたのでしょう。
一度目の入店でほんの少しぼったくって、味をしめて2度目は大幅にぼったくり。

あの時は頭に血が上ってムッとしてしまったけど、恐る恐るボッタくりを試みる彼らの言動がなんとも「慣れてない感じ」で、逆にちょっと笑ってしまいました。

たぶん会計の時に厨房に入って二人で
「おい、いくらくらい上乗せすればいいんだ!?」
「わからねえよ、500じゃ多すぎるから300くらいにしておいた方がいいぞ。」
みたいな会話が繰り広げられていたのでしょう。

悪いことをすることに慣れていないスリランカ人の、ある意味人の良さというか倫理観をちょっと垣間見た気がした出来事でした。

今回のケセラセラ

別の話になりますが、スリランカではお酒を飲むことが倫理的に良しとされないお国柄。
ショップなどで大っぴらにビールやお酒などは売っておらず、目立たないように営業しているリカーショップが数少ないアルコールゲットスポットとなっています。
まるで闇営業のパチンコの換金所みたいなリカーショップに訪れるおじさんたちは、手にかわいらしい手提げ袋をぶら下げて恐る恐る「ビール」なるものを購入していきます。

ある時、まわりをキョロキョロ見回しながらソワソワとリカーショップに入って行くおじさんの姿を観察してみました。
薄暗い店頭で350ml缶と思しきビールを1本購入。代金を支払ってすぐ手提げ袋にしまいこみ、いそいそと出てきたおじさんの表情が忘れられません。
もう顔がにやけてほんとにうれしそう。
へんな例えですが、コンビニでエロ本を買ってしまった中学生みたいな様子です。

ビール缶を買ったおじさんといい、ボッタクリを試みた食堂の店員といい、倫理的に良しとされない行為を恐る恐るしてしまうスリランカ人がなんとも微笑ましいのです。

インドや中米とかではボッタクリは日常茶飯事で、旅行者にとってイヤな出来事も少なくありません。
しかし、スリランカではそういう事が少ないと改めて思うのでした。