流れに身を任せていれば大抵のことはなんとかなる

バックパッカーの旅では予期せぬ面白いことに出会ったりする。
そのときはワケが分からんのだけど、結果的に面白かった、という意味合いが込められている。
みっちりプランを練らない旅の最中は、この先どうなるのか分からない、ということの連続。だけど後で考えてみると面白い出来事だったな、ということが多い、と言うわけだ。

1月にベトナムに行ってきたのだが、南部のカントーという町からカンボジア国境付近にあるフーコック島へと移動する時、まさしく「ワケが分からなかったが、結果的に面白かった」という状況に遭遇した。

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ベトナム南部の旅。フーコック島への道

旅をした1月下旬は中国の旧正月に伴い春節、いわゆる大型連休の時期だった。ベトナムでは春節連休のことをテトというらしい。
移動が困難になりホテルも埋まりがちなこの時期、ホーチミンからフーコック島へと移動することにした。

ちなみにテト期間中だなんて1mmも考えずにベトナムに来たもんだから、ホーチミンに降り立った時、最初は何やらお祭りで賑やかだな〜と呑気に思っていた。日本で言うとGWとお盆と正月がいっぺんに来るようなベトナム人にとっては貴重な長期休暇だとはつゆ知らず。コロナの規制緩和で居ても立ってもいられずフライト予約してしまったので仕方ないといえば仕方ない。わざわざこの時期を狙って旅をする外国人は少ないんじゃないだろうか。

案の定、ホーチミンの旅行代理店でフーコック島へ渡る船の予約をしようとしたが、なかなか取れない。それどころか島へ渡る手前の街のホテルもほぼ全て満室という有様だった。
テト期間の旅行とは大相撲千秋楽の国技館みたいなもので、どこに行っても人がいっぱい、身動きが取りづらい。しかしながらこの時期だからこそワクワクする出来事もあるはずだ。

ようやくフェリーチケットが取れ、旅行会社のディンさんがフーコック島までの道のりを親切丁寧に説明してくれた。
それによると、こういう手順となる。

  1. ホーチミンの宿泊先近くにミニバスが来るので乗る
  2. ミニバスが地方へのバスターミナルに到着するので、カントー行きのバスに乗る
  3. カントーでは観光のため2泊3日滞在。3日目の早朝にホテルへタクシーが迎えに来る
  4. タクシーはカントーのバスターミナルに行く
  5. カントーのバスターミナルでハティエン行きのバスに乗る
  6. ハティエンのバスターミナルに着いたら港へ移動する
  7. 港にフェリーが停泊しているので乗り込む
  8. フェリーはフーコック島へ到着する

このような長い道のりとなった。
順を追って見てみよう。

1. ホーチミンの宿泊先近くにミニバスが来るので乗る

長距離バス会社のオフィスが待ち合わせ場所だった。旅行会社のディンさんが付き添ってくれ、時間にちゃんとミニバスが来て問題なく乗ることができた。

ディンさん
ホーチミンの旅行会社のディンさん。世話になった。

2. ミニバスが地方へのバスターミナルに到着するので、カントー行きのバスに乗る

バスターミナルに着いたのは良かったが、そこから放置状態。どのバスに乗ればいいのかさっぱり分からない。どれがカントー行きのバスか分からないという状況に陥った。

この混雑の中、自分の乗るバスを自力で探さないといけない。

ものすごい人混みをかき分けてバスチケットを手に持ちながらプラットホームに入ってきたバスの運ちゃんに「カントー?」と聞くが「違う、まだ来ないよ」的な返答。他にもいくつかのバスにアタックするがどれも同じような返事だ。
こういう時は肩の力を抜いて「もう知るかー!」と全てを投げ出すことで事がうまく運ぶ場合がある。
ターミナル内の食堂で昼飯をヤケ食いする気になったが、ふと思い立って弁当のテイクアウトにしてもらう。

店内かテイクアウトか聞かれる。一瞬迷ったがテイクアウトにしてもらってよかった。

そして再びバス・アタックをしたところお目当てのバスにようやくぶち当たることができた。あのまま食堂でヤケ食いをしていたら危うく乗りそびれるところだった。
バスに乗ったらディンさんから電話あり。無事乗れたか?と。この先ことあるごとにディンさんから電話が来ることになる。

3. カントーでは観光のため2泊3日。3日目の早朝にホテルへタクシーが迎えに来る

カントーの町で水上マーケットに訪れたり市場を散策したりそれなりに楽しんだ。そして3日目の早朝。
なんと4時半にディンさんから電話がかかってきた。というのも、迎えのタクシーが5時20分に来るため、そのリマインドというわけだ。幸い4時ごろから目覚めて準備をしていたので問題ない。ディンさん、俺のことは大丈夫だから寝てくれ。

4. タクシーはカントーのバスターミナルに行く

5時半ごろ宿泊先のホテルの前にタクシーが来て、ホテルの人に見送られバスターミナルへ。これは難なくクリア。

5. カントーのバスターミナルでハティエン行きのバスに乗る

夜明け前の真っ暗な中、バスターミナルへ到着。しかしハティエン行きのバスはまだ乗車できない。そもそも7時出発のバスなのに5時45分に来てしまったので、ちょっと早過ぎやしないか?と思ったが、ベトナムではこのくらい余裕を持つことが大事なのだろう。
プラスチックの椅子に座りながらウトウトしていたらバスのドアが開いたので乗り込む。
ここでまたディンさんから電話だ。「無事乗れたか?」大丈夫だから寝てくれ。

カントーのバスターミナル
明け方のカントーバスターミナル。これからバスに乗るところ。

6. ハティエンのバスターミナルに着いたら港へ移動する

ベトナムのバスはリクライニングどころかほぼ水平に寝っ転がる寝台車が一般的だ。日本では考えられない座席仕様だが、これが慣れると快適だ。ハティエンへの道すがら、ローカルな場所で次々乗客が乗り降りする。途上国あるあるだが、寝台シートにありつけない乗客は通路に体育座りしている。

ベトナムバスの寝台車
寝台シートを確保できない乗客は通路に体育座りする。

さて、ハティエンのバスターミナルに到着したが、ここからがワケが分からないことの連続であった。
とりあえずトイレに行って、出てきたところ見知らぬおっさんに声をかけられた。
これは客引きだなと察知して無視してすり抜けようとする。しかしおっさんがベトナム語で必死に食い下がってくる。
バイクでフェリーターミナルに行ってくれるようだが、ぼったくられるのはいやだ。
英語で「いくらかかるんだ?」と聞いたがベトナム語で何かを叫んでいてワケが分からない。
近くにいた英語がわかる人に通訳してもらったところ、どうやらお金は必要ないらしい。

ハティエンのバスターミナルでバイクのおっさんに話しかけられる
ハティエンのバスターミナルでバイクのおっさんに執拗に話しかけられるが、この人は良い人だった。

なんだかすごく急かされるのでとにかくバイクの後ろに乗って移動してもらった。
降ろされたところはフェリー港ではなく一軒の食堂だ。
おいおい、どこなんだここは?
バイクのおっさんは自分の仕事が終わったと言わんばかりにどこかに行ってしまった。
また放置状態である。

よく分からん場所で放置される。

食堂には人が結構いたが、何をすればいいのか分からずしばし呆然と立ち尽くす。すると見知らぬお姉さんが手招きをして食堂の一角のブースに連れて行かれた。あ、フェリーの写真が貼ってある。
どうやらそこはフェリーのチェックインブースみたいで、スマホに保存していたフェリーチケットの画像を見せることにした。

すごく分かりづらいフェリーのチェックインカウンター。

すると今度は外の方を指さして、あっちの方へ行けと言う。まったくもって意味が分からない。
ここでも茫然自失となっていたところ、また別の人から「あっちに行けってば!」といったジェスチャーをされる。ベトナム語がさっぱり分からないので推測だが。
あっちってどっちだよ・・・。涙目になった迷子の4歳児になった気分で棒立ちしていると、今度は別のおっちゃんが動きを見せた。
おっちゃんはバイクに跨るとすぐにでも出動しそうな素振りを見せる。おあつらえ向きのタンデムシートがそこにあり「乗れ」と促されている気がしたので跨った。と同時にバイクがうなりをあげて動き出す。まだちゃんと跨がれてないので落っこちそうになりながらも構わずバイクをかっ飛ばすおっちゃん。どうなってるんだよ一体。

おっちゃんのバイクでニケツ移動。

連れて行かれた先でバイクを降りるとそこには乗る予定のフェリーが停泊していた。

7. 港にフェリーが停泊しているので乗り込む

バイクのおっちゃんにチケットを見せると、こっちに来いと連れて行かれ、そこには白服のフェリー乗務員らしき男がつまらなそうに立っていた。
白服の男にチケットを提示するとバーコード読み取り機でピッとして「さあ、乗れ」とフェリーを指差す。

展開が速い。

・・・とまあこんな感じでまったくワケが分からないまま流れに身を任せていたら、気づけばフェリーに乗っていた。

フェリー内は冷房が死ぬほど効いていて、文字通り凍死しそうなほど寒かった。1月の日本の寒さを避けてベトナムに来たのに、まさかここで今シーズン最強寒波に見舞われるとは思いもしなかった。
そしてもちろんディンさんからの電話。「フェリーに乗れたか?」
ワケが分からない状況が続いたがディンさんは全て流れをわかっているのかもしれない。逐一電話で安否確認してくれるのはありがたいが、ちょっとわずらしい。しかしこれがベトナム人の心遣いというものなのだろう。

まるで冷蔵庫の中。

8. フェリーはフーコック島へ到着する

極寒のフェリー乗船を終えて無事にフーコック島に到着する。
下船した後に予約した宿がある島の中心部に移動しなくてはいけなかった。ここでもしばし途方に暮れたが、その辺の暇そうなおっちゃんが突如バイクタクシーに変貌して目的地まで乗せていってくれた。途中道を間違えたところを見ると正規のドライバーでないのは明らか。だけどまあ無事に宿に到着したのでヨシとしよう。ここはベトナム。細かいことはどんどん履いて捨てて行かないと心の底にどんどん不平不満不安のゴミがたまっていく。

おっちゃんの小遣い稼ぎ。

宿の部屋に入ってリラックスしているとディンさんから電話、いや、今度ばかりはビデオ通話だった。
歯に矯正をあてたドアップのディンさんの笑顔を見ながら無事を伝え、ここまでの旅の感想を簡単に述べておいた。
「ゴールに到達したね、おめでとう!」
脱出困難な迷宮アトラクションをクリアして主催者にねぎらいの言葉をかけられているような気分になったが、とにかく流れに身を任せているうちになんとかなったのは確かだ。そして後で思い返してみるとなかなか面白いと思える流れだった。

下手に流れに逆らうと疲れる。水のように流れに乗る方が楽で良い

ワケが分からないなりに流れに身を任せていたらゴールに辿り着いていた。
途方に暮れそうになった時もあったが、毎回助け舟、というか打開ルートが用意されていてちゃんと進むことができた。

一方、流れに逆らっていたとしたらどうだろうか。
例えば、分かりづらい手配した旅行会社のディンさんにブチ切れて「返金しろ!」とか迫ったところで、ここはベトナムだし、おそらくそれは賢明な手段とは程遠い。
バイタクのおっちゃんを拒否して別の手段でフェリーターミナルに向かったら、もしかしたらフェリーに乗り遅れていたかもしれない。

旅の間は流れに身を任せていれば大抵のことはなんとかなる。

上善如水(じょうぜんみずのごとし)という言葉が大好きだ。
日本酒のことではない。

《「老子」八章から》最高の善は水のようなものである。万物に利益をあたえながらも、他と争わず器に従って形を変え、自らは低い位置に身を置くという水の性質を、最高の善のたとえとしたことば。

今回は旅のエピソードに当てはめたけど、この考え方は旅に限らずいろんなことで応用できるはずだ。
今後も水の如く軽やかに流れに乗っていきたい。

フーコック島のビーチ。どんな水滴でもやがて自然に海へとたどり着く。